previous page ← | index | → next page

 

第4週

●第16話

罪深き眺め

 Shelly Perceyは今日も煙草を喫っている。
 いつものように病院前の石段に腰を下ろして、新技術を夢想するロケット技師みたいにぽかんと青空を眺めていた。何が彼女を熱中させているのかは不明だが、私が近づいてもまったく気づいていないようだった。
 「おい」
 声をかけると、薄汚れたアライグマみたいにびくっと震えて、私を見上げた。
 「人を呼び出しておいて……」
 「あああ忘れたっ!」
 「は?」
 「今、すごく、すばらしい、アメイジングなプランを思いついたのに! 世紀の大発見につながるかもしれないグレイトなプランを! コロンブスの卵がテーブルから落ちるのをニュートンが見てエウレカ! って叫ぶくらいのスペシャルなプランを! ああああ」
 「……」
 「どうすんのよ!!」
 私は、少し考えて、言った。
 「自分でどうにかしろ」
 Shelly Perceyは口を二、三度ぱくぱくさせてから、両手をフニャフニャと踊らせた。
 「……なんの真似だ」
 「あんたをどう罵倒しようか考えてるんじゃないの!」
 「罵詈雑言は死体安置所で好きなだけ言え。仕事の話はどうした」
 Shelly Perceyは、それでもしばらくフニャフニャと踊っていたが、やがてあきらめたようだった。短くなった煙草を捨て、新しい1本に火を点けた。
 「……『Facemaker』は知ってるでしょ?」
 「知らん」
 「あんた、本当に何も知らないのね。少しはこの群島のこととか、敵対組織のこととか、勉強したら? 悪党が自らの身を守るためには、事前の情報収集こそが最も重要だ、って、この間診た患者が言ってたわよ?」
 「その処世訓が正しかったら、そいつは病院に来る必要はなかったんじゃないのか」
 「……あー……」
 「で、『Facemaker』がどうした」
 「ええと……、つまり、FacemakerはDr.Vahzilokの愛弟子で……、Dr.Vahzilokくらいは知ってるわよね?」
 「ゾンビ製造業者の親玉か」
 「そう。彼は死体蘇生術のエキスパートだけど、Facemakerはむしろ……『下ごしらえ』の専門家みたいなもので、デビューしたての可愛い新人女優を攫ってきては、下水道の奥の研究施設で切り分けて、人体のパーツをコレクションしてるとかしてないとか、そういう事で名の通った最っ低の変態女よ」
 「食事時にはもってこいの話題だな」
 「……変態には違いないけど、まあ、その、興味あるのよ、ちょっと、彼女の研究」
 曖昧な言い方が引っ掛かった。この女の曖昧な言い回しのおかげで、前の仕事では謎の異星生物とやらに憑依されかけた。
 「『ちょっと』か?」
 「あ、ええと……」上目遣いに私を見て、首をすくめた。「まあ、本当の所は、かなり注目してるというか、あの、つまり、……研究テーマが同じ『死体蘇生術』なんだからしょうがないでしょ!」
 「私に怒ってどうする」
 「あ、うん。……そのFacemakerのねぐらのひとつを見つけたわ。そこから、彼女の研究成果を、少しばかり持って来て欲しいんだけど」
 私は少しばかり呆れた。
 「自分で研究せずに、他人の成果を盗むのか」
 「しょうがないでしょ。病院で死体蘇生術の実験なんかやらせてもらえないんだから。第一、こっちは一日中生きてる患者の相手をしてるのに、向こうは好きな時に好きなだけ死体と遊んでいられるのよ。臨床試験のデータ量が違いすぎるわ」散々愚痴を言ってから、嫌な目つきで私を見上げた。「別に、わざわざ盗んできてもらわなくてもいいのよ。……あんたの体で実験させてくれるなら」
 冗談じゃない。

 

 <Vahzilok>、知ってますか。知ってますよね。あのゾンビの群れ。
 あのゲロ。
 イヤでしたね、あの緑色のゲロ。
 Rogue Islesにも出ましたよ、あのゲロ。いや<Vahzilok>。Paragon Cityの下水道でひっそり暮らしていればいいのに、海を渡ってこんなところまで来やがりましたよ!


住み処はやっぱり下水道。

 さて、今回はその<Vahzilok>の皆さんがお住まいの下水道に出向いて、ちょっくらちょいと、死体蘇生に関する研究成果を戴いてくるというMissionです。
 他人の研究成果を奪い取るという行為は、実に由緒正しい悪党的活動といえましょう。
 「吉田博士、可愛い娘の命が惜しければ、貴様の発明したXレーザー発振装置の設計図を渡すのだ、うはははは」
 みたいな。やっべ、マジ悪党じゃね?
 でも相手が<Vahzilok>なので悪党度やや低下でありやや残念。やはりここは、
 「Facemaker博士、可愛いゾンビの命が惜しければ、貴様の発明した死体蘇生薬を渡すのだ、うはははは」
 とかやるべきですよ。てゆうかゾンビ可愛くないし。てゆうかてゆうかゾンビに命ないし。命惜しくないし。やっべ全然ダメじゃね?


お目当て発見。

 ともあれ、ゾンビのくせに筋肉量が多いAbominationは相変わらずSmash耐性があって、Martial Artsの人にはイヤな敵なのですが、掃討完了。Labと保管庫から研究成果をかっぱらって、すたこらさっさと走り去るのであった。

 

 FacemakerのLabから奪ってきたのは、緑と紫の得体の知れない混合液だった。Shelly Perceyは目を輝かせてそれを受け取ると、頬ずりしそうな勢いで顔を寄せて、
 「凄いわ、Elder Kissme。これが欲しかったのよ」
 いつもは不健康そうな顔が紅潮していた。これから彼女が、この薬で何をするかを思うと、あまり気味の良い眺めではなかった。彼女は混合液の瓶を見つめたまま、
 「以前から、Facemakerのことは気になっていたの。彼女は化け物と言われているけど、同じ目的、嗜好を持つ者同士、見えない何かでつながっている気がしていたの……」
 Shelly Perceyは私を見上げた。潤んだ目は、最愛の恋人でも見つめているかのようだった。
 「私たち、姉妹だったんじゃないかって、……そう思うこともあるのよ」
 望遠鏡でレイプの現場を見るような言い知れぬ不快感に、私は無言でその場を立ち去った。(*1)

 

[注釈]

*1:
CADのContact、Dr.Shelly Percey編第2弾です。気持ち悪いMissionです。おなじみの<Vahzilok>がどうこうではなく、Mission全体を通して、Shelly Perceyの反応がとても気持ち悪いです。気持ち悪いけど、「Mask Maker」のBadge Missionなので、取り逃さないようにしたいですね。

●第17話

汝! 怒りもて報いよ

 世の中は陰謀で満ち溢れているらしい。
 湾岸戦争は石油メジャーと軍需産業の陰謀で、1ドル紙幣に石のピラミッドと目が描いてあるのはフリーメーソンの陰謀で、米国人に肥満が多いのはイルミナティの陰謀だ。米国各地に建設されている謎の電波塔はマイクロウェーブで市民を謀殺しようとする陸軍情報部の陰謀だし、ロズウェルのUFO墜落事件を隠蔽したのは軍上層部と政府中枢部の人間で組織されたマジェスティック12の陰謀で、しかも実はマジェスティック12というのはマジョリティ12という真の組織の存在を隠蔽するためにリークされた偽の情報だったのだ!
 私がぶち込まれたZigguratの懲罰房の隣で、そんなくだらないことを一日中わめいている奴がいた。自身を取り巻く陰謀の質量に怯えきっていたが、私には、逆説的に人生を楽しんでいるようにしか見えなかった。人間は、結局陰謀が好きなのだ。
 CADの船着場の夕闇に、ふと独房の暗闇を思い出した私の前に、またあの女が現れた。高慢な女吸血鬼、Alimacだった。笑いながら死んだ奴の顔の皮を剥いで被ったような、物凄い笑顔で、
 「Elder Kissme」
 「断る」
 「まだ何も言ってないぞ」
 「牙を剥き出して笑っている吸血鬼が信用できるか」
 Alimacは笑顔を引っ込めて、苦い顔になった。
 「相変わらずひねくれた奴だ。儲け話がある。分け前はやらんが手伝え。奴隷のようにこき使ってやる」
 「……『NOならこの場で殺す』のか?」
 「当然だ」
 はた迷惑な女だ。
 「この私がわざわざ迎えに来てやったのだ。愛想笑いまでしてな。余人なら金をもらうところだ」
 「……マニアなら3ドルくらい払うかもしれん」
 「何か言ったか?」
 「別に」
 ポップコーンは別料金だと言おうと思ったが、やめておいた。

 Alimacに案内されたのは、CADの東側、Mt.Diableの中腹だった。5人の男女が待っていた(動物とロボットも混じっていたが)。赤い髪の、煮えたぎる溶岩のような目をした女が、私を見て一瞬妙な表情になった。
 「遅かったじゃないか」
 赤い髪の女が言った。
 Alimacは私の方に顎をしゃくって、
 「こいつがゴネた」
 「先が思いやられるね。……一匹狼気取りらしいけど」女は、凄い力で私の肩を掴んだ。「この仕事のリーダーはあたしだ。ここに来た以上、あたしの命令には従ってもらうよ、Elder Kissme」
 私は、女の目を見据えたまま、黙ってその手を引き剥がした。
 「フン。あたしはDirty Lala。憶えておきな。……行くよ」
 全員が腰を上げて、獣道を歩き始めた。
 私はAlimacを見た。
 「お前の仕事じゃなかったのか」
 「私の仕事だが」Alimacは、私の耳に唇を寄せて、微笑した。「面倒だから、あいつをおだてて、まとめ役をやらせている」
 「……」
 「あいつ、貴様の名前を知っていたな。知り合いか」
 「いや」
 Zigguratで見かけたことはあった。あの女もそれを思い出したのだろう。
 5分ほど登った所に、大人の背丈ほどもある巨大なポータルがあった。傍らに、洗いざらしのコットン製品みたいな老人が立っていた。頭髪が一本も無い代わりに、白く長い髭を生やしていた。
 「よく来たな」
 老人は至極満足そうに微笑んだ。内側から、悪意の脂がじっとりとにじんでくるような笑顔だった。
 Dirty Lalaが前に出て、その老人と話すのを、私は離れた所から見ていた。
 「今回の依頼人、Virgil Tarikossだ」
 訊いてもいないのに、Alimacが言った。そして聞くまでもないことを付け加えた。
 「胡散臭い奴だがな」
 「『ウラがある』方に5ドル賭けるぜ」Roland The MotorLordと名乗る隻眼の男が、笑いを含んだ声で言った。「乗らないか、Alimacの姐さん」
 「双方同じ目に張ったら賭けが成立せん」
 「ポニーテールのお嬢さん」この島の悪党にしては地味な格好のPiolaという女が、私に言った。「あんたはどう思う?」
 私が口を開くより先に、太い手が伸びて私の腕を掴んだ。Dr.Ricefieldという人相の悪い男だった。
 「俺も、怪しいと思うなあ。ああいう輩は裏で何を考えてるかわからねえ。……このお嬢ちゃんみてえになあ」
 馴れ馴れしいその手を、私は振り払った。
 「嫌われたみたいよ、ドクター」
 「ヘッ。あんまりお高くとまってるのはよくねえなあ。悪党にも愛想と愛嬌は必要だよなあ。あと愛情もなあ。おっ、コレ良くねえか。悪党の3A。愛想、愛嬌、愛情」
 「全然悪党じゃないじゃん」
 Piolaは夕暮れ時の蝉みたいにけたたましく笑った。
 ようやくDirty Lalaが戻ってきた。
 「老人の話は長くて困る」
 Roland The MotorLordが、敵は、と訊いた。
 「<Legacy Chain>」
 「あの狂信者どもか……。厄介だな」
 「ハッ。あんな雑魚ども、あたし一人で充分さ」
 「だといいが」
 呟いた私の首に、Dirty Lalaの手が伸びた。手首を掴んで止めるのが一瞬遅かったら、喉を握り潰されていたかもしれなかった。
 「偉そうに、何様のつもりだい。……黙って仕事しな」
 「お前もな、ナントカLala」
 「あたしはDirty Lalaだ!」激昂したDirty Lalaの手が、強烈な輝きを放った。「ぶち殺されたいのか、この露出狂!」
 「Dirty Lala」
 Alimacが口を挟んだ。こういう時だけ、愉快そうな表情になる女だった。
 「そのくらいにしておけ。時間が惜しい。そいつには私が言い聞かせておく」
 Dirty Lalaは私の手を振りほどいた。わざと聞こえるように、もう一度「露出狂め」と吐き捨てた。
 「このあたしが、<Legacy Chain>ごときに負ける訳ないだろ! その目でよく見ておきな! ……行くよ」
 <Legacy Chain>の待つビルへと、私たちは夜空を駆けた。

 

 CoHにはTask Forceという長い長い一連の特殊Mission群がありますが、CoVにも同様のMission群があります。CoVではこれをStrike Forceと呼んでおります。略してSFです。

 今回はLv.15-20帯のSFである「The Beast Beneath the Mountain」、通称SF1に行ってきました(*1)。Alimac(Alphin)さんの主催で、メンバー構成はAlimacさん、Dirty Lalaさん、Dr.Ricefieldさん、Piolaさん、Pochiさん、Q-Gさん、Roland The MotorLordさん、そして私の8人。Stalker×2、Corrupter×3、Mastermind×2、Brute×1という、比較的バランスの良い布陣でしょう。


突入だ!

 依頼人はCADの山中にいるVirgil Tarikossというご老体。なぜか頭部から激しくオーラが出ています。相当ハゲしいです。

 ご老体は<Legacy Chain>との間にトラブルがあったか何かで、最初に<Legacy Chain>退治を依頼してきます。その詳しいいきさつに関しては他のサイトに任せるとして(*2)、<Legacy Chain>のアジトである、島内のビルへ突入します。

 <Legacy Chain>は様々な属性攻撃を使ってくるイヤな敵のひとつですが、まあ8人チームですし、Buff&回復担当者もいっぱいいますし、Mastermindが二人いるから手下ロボもたくさんいますし、大丈夫っす! 全然平気っす!


<Legacy Chain>!

 とか言ってるうちに、Stun効果付きでダメージも大きいEarth系のPowerを使う中ボスの猛攻の前に、ガンガンピヨってガンガン死亡していくメンバーたち。

 ここは一旦退いて、体勢を立て直しましょう。

 「Earthはこわいね」
 「うん、Earthはこわいね」
 「すこしずつPullしようね」
 「うん、すこしずつPullしようね」

 猫の首に鈴を付ける相談をするネズミさんのように、額をつき合わせて作戦を練る我々。

 しかしその時、そんな提案に目もくれず、たった一人で敢然と敵陣に突入する勇者の姿があった!

 その名は!


その名は?

 

 「畜生」
 闇の中で、Dirty Lalaが言った。
 <Legacy Chain>は意外な強敵だった。いや、チームメンバーの提案通りに少しずつ誘き出して戦えば、決して苦戦するような相手ではなかった。怒りに我を忘れたDirty Lalaが独りで暴走しなければ。
 彼女が飛び込んだ広間にいたのは、集会でも開いていたらしい<Legacy Chain>の大群だった。Dirty Lalaも、そして彼女を救うべく突入せざるを得なかった我々も、敢えなく<Legacy Chain>のスーパーパワーの餌食となり、全員満身創痍で退却するしかなかった。
 「畜生!」治癒能力のある連中に傷を癒してもらいながら、Dirty Lalaは言った。「今度は絶対……」
 「お前の暴走には付き合っていられない」
 私は彼女の前に立って、言った。
 「最初の作戦通り、少数を誘き出して戦うことを提案する」
 「さ、さっきは油断しただけだ!」
 「負け犬のたわ言にも付き合っていられない」
 負け犬という単語に、Pochiという二足歩行している犬のような奴が、不満そうに鼻を鳴らしている。
 「……あたしは負け犬じゃない。敵の数が多くて混乱しただけだ。冷静になれば……」
 「『黙って仕事しな』」
 私は、彼女自身の台詞をそのまま返してやった。
 Dirty Lalaは、火を噴きそうな目で私を睨んだ。
 「……この……」
 「愚痴ならお家の日記帳に書け」
 その瞬間、彼女の光る拳が私の胸を撃った。肋骨が砕ける音を聞いた。何が彼女の逆鱗に触れたのかわからないまま、私は吹っ飛ばされていた。渾身の力で殴られたに違いなかった。
 なおも悪鬼の形相で追ってくるDirty Lalaに手のひらをかざし、私は本能的に一切の気配を絶った。
 「逃げる気か!!」
 闇の中で私の姿を見失って、Dirty Lalaは吠えた。
 逃げるつもりはなかった。私はDirty Lalaの背後に回った。激痛に途切れそうになる意識を、歯を食いしばってつなぎ止めた。
 猛り狂う女の延髄を一撃で破壊すべく、全身の力を腕に集中する。(*3)

 

[注釈]

*1:
いつの話なの! 読んでくださってる方よりも先に、私自身がそう言いたいです。だから、主催したAlphinさんのBlogLalaさんのBlogで日時を確認したりしないでくださいよ。お願いしますよ。

*2:
またかい!

*3:
……何かヒドイことになっていますが、登場している実在Villainの方々に対してまったく他意はなく、ご本人たちはとてもチャーミングな方々なので全然安心です。相変わらずこんな扱いばかりですみませんのう。既にCoVをプレイしていない方もいるような気もしますが...。さて、当日記でのTFやトライアルは、劇場版だの落語だの、適当なテーマを決めて書いていますが、今回のテーマは「クロスオーバー」! アメコミっぽいです! 「クロスオーバー」とは、一般的に2つ以上の異なる作品の登場人物が共演すること! しかし今回は他人のサイトに勝手にクロスオーバー! 許されるのかこんな企画! そして二人の女の死闘の決着は!? 待て次号!

●第18話

妄執果つるとき

 一瞬、意識がブラックアウトした。
 肉体のダメージは予想を上回っていた。
 膝から力が抜け、崩れ落ちてゆく感覚に、はっと意識を取り戻した。
 背中に、火のような殺気を感じた。とっさに振り向いた。男がいた。<Legacy Chain>の男だった。握り締めた長剣はDirty Lalaを狙っていた。
 私は無意識に、溜めた力をその男にぶつけていた。
 男は、闇から突然現れた私に驚く暇もなくぶっ倒れた。
 私も地に膝をついた。限界だった。
 「追撃だ! <Legacy Chain>だ!」
 誰かの声が聞こえた。<Legacy Chain>の狂信者どもが、怒り狂ったDirty Lalaの声を聞きつけて襲ってきたのだろう。
 当のDirty Lalaは、倒れている男と、死にかけの私を見て立ちすくんでいた。
 「……お前、私を……」
 「頭を冷やせ」困惑する声を遮って、私は言った。「お待ちかねの<Legacy Chain>だ。さっさと行ってぶちのめしてこい」
 「……」
 「……またやられるのが怖いのか?」
 「く、馬鹿を言うな!」
 駆けてゆく足音を聞きながら、私は意識を胸に集中した。自己回復能力をフル稼働して、傷ついた肉体を癒した。
 完全に回復した私がメンバーの所へ戻った頃には、<Legacy Chain>の追撃部隊はあらかた片付いていた。
 Dirty Lalaが困ったような不思議な顔で私を見ていた。
 私は無言で残党を始末した。

 依頼人Virgil Tarikossは、あれをやれこれをやれと注文の多い老人だった。
 我々は<Legacy Chain>を掃討し、<Circle of Thorn>を撃退した。街中でひと暴れしたと思ったら、その次はポータルを通って地下都市へ殴り込みだ。老人との交渉はDirty Lalaが一人で行っていたから、彼女以外に、自分達の行為の意味を把握している者はいなかっただろう。私も理解してはいなかった。理解していても、やる事に変わりはなかっただろう。
 文句を言いながら仕事をこなしていくチームの中で、Dirty Lala一人が、嬉々として戦っていた。時折私を見る瞳から、あの炎のような敵意は薄れていたが、代わりに別の輝きが宿っていた。
 「良くない兆候だ」
 ロボットのようなQ-Gが、ロボットのように抑揚のない声で言った。「実に良くない」
 「良くないかね」
 Roland The MotorLordが訊いた。
 「良くない。彼女は欲に走っているようだ。欲は人の目を曇らせる。目の曇りはミスを生む。欲に走るのは良くない」
 「禁欲的な悪党ってのもどうかと思うが……。老人の口車にでも乗せられたかね?」
 「ああいうのは、使い捨てられるタイプだな」Alimacが言った。「狡兎が死んだら真っ先に烹られる走狗だ」
 仮にもリーダーに対して、好き勝手な事を言っている。
 走狗という表現に、Pochiが不満そうに唸っていた。
 「どうかしたかい?」
 老人との話を終えたDirty Lalaが、こちらを見て言った。スーパーマーケットの開店セールに一番乗りした主婦のように上機嫌だった。
 皆、肩をすくめただけだった。私が代わりに言った。
 「浮かれて己を見失うな、だそうだ」
 「ハッ! あたしを誰だと思ってるんだい!」
 Dirty Lalaだ。
 「さあ、最後の大仕事だ。野郎ども、行くよ!」

 

 大苦戦の対<Legacy Chain>戦、Negative Energy攻撃がイヤな対<Circle of Thorn>戦等等を経て、SF1の締めくくりは、山の下、地獄のようなマグマ溜まりでの戦闘です。

 もうポータルをくぐり抜けた途端に熱いです。

 おまけに、Paragon CityからはるばるやってきたInfernalさんまでいます。まあ、今回は地獄に遠征してきて疲れているのか、相当弱体化していますので、Hero時代最終盤のような悪夢は見なくて済みます(*1)。


Infernal登場

 というか、弱すぎて雑魚掃除中に、気づかないうちに一緒に倒してしまって「おや?」という状態だったりもしました。

 さらに進攻すると溶岩の海が見えてきます。激アツです。一番風呂が好きな江戸っ子でも耐えられめえってんだべらぼうめってくらいの激アツです。

 周りには前肢と目のないカエルの素揚げというか、二本足のチキンレッグというか、激しく食欲をそそらない者どもがいるので掃除します。ほっとくと後が大変です。


なんかイヤン。

 余裕があるような書き方ですが、この時点ですでに何人か死んでいます(T-T)。でも鍛えられた悪党の人なので平気です。

 そして封印を解くと、巨大な大魔王Bat'zulさんが大復活であり大迷惑です。


Bat'zul復活!!

 ものすごくつよいです。ぶんしょうがぜんぶひらがなになってしまうくらいつよいです。ゴォーと火を吐くと、一撃でMMの手下が全滅してしまうくらいの強さです。でも鍛えられた悪党の人である8人は力を合わせて、Bat'zulさんを再び溶岩の海に沈めたのでありました。

 

 この世は陰謀に満ちているらしい。
 巨大なBat'zul the Imprisonedとの戦いから生還し、疲労困憊で地面に腰を下ろすメンバーを見渡して、私はふとそんな事を思った。
 離れた所で、Dirty Lalaと何やら言い争っていた老人の姿は、高笑いとともに消えた。
 残されたDirty Lalaは、ボウリングのボールに眉毛を付けただけみたいな空虚な顔で、老人のいた辺りを見つめていた。
 「茫然自失といった所だな」
 私の言葉に、Alimacは鼻で笑った。
 「やはり、老人の甘言に乗った挙句裏切られたか。目先の利益に踊らされるからだ」私を見た。「貴様も大きな視点で物事を見極めろ。近視眼的に世の中を渡ろうとしても、犬死するだけだ」
 犬死という単語が聴こえたのか、Pocniが不満そうに喉を鳴らしていた。
 「人に説教する前に、お前はこんな結末でいいのか。元はといえば、お前の仕事だろう」
 「仕事の内容など大した問題ではない。思ったほどではないが、それなりに小銭が稼げた。それで良い」
 「……大した『大きな視点』だ」
 呆れている私の前に、レモンを喉に詰まらせたような複雑な顔のDirty Lalaが立った。
 「何だ」
 「やる」
 見上げる私に、小さなピルケースを放ってよこした。受け取った。Enhancementだった。意図がわからず、もう一度彼女を見上げた。
 「かっ勘違いするな! 報酬だ! め、メンバー全員に分配しているだけだからな!」
 「……」
 まだ何か言いたそうにもごもごと口を動かしていたが、結局プイと他のメンバーの方へ行ってしまった。
 しばらくして、Alimacがぽつりと言った。
 「あいつ、本当は貴様が好きなんじゃないか」
 「……どこからそういう素っ頓狂な発想が出てくる」
 「聞いたことがあるぞ。ああいうのは、日本では確かツンドラと呼ばれているらしい」
 「自称シベリア生まれの偽ロシア人なら知っているが」
 「誰がシベリアの話をしている。ツンドラだ」
 「シベリアはツンドラだろうが」
 「だから……、話のわからん奴め!」
 Alimacは一人で怒っていた。

 Enhancementは、その日のうちにジャンクフードに変わって私の胃に収まった。(*2)

 

[注釈]

*1:
HeroのLv.45+のStory Arcでは、悪の道に走ったパラレルワールドのHero達と戦うことになります。Infernalももちろん登場しますが、近くに超大量のデーモンを生み出すポータルがあったり、超大ダメージの斧攻撃をしてきたりと、最難敵のひとりです。

*2:
前編である前回は殺伐とした雰囲気を描いたので、後編である今回はほのぼのした感じにしようと思ったらこんな有り様に! なんですかこのオチは。

●第19話

血に飢えた悪鬼

 貴重な経験とか、一生に一度しかお目にかかれない眺めとかいうものは、本来記憶の中にしか存在しない。過去を振り返ったときに「ああ、あれがそうだったのか」と思うもので、リアルタイムでそれとわかる事象に出会うことはめったにない。そのめったにないレアケースが、今私の眼前にあるらしかった。
 冬の海辺に、ぽつんと店を開いているドーナツ屋があった。この時期にこんな場所でドーナツを買い求めるような頭のおかしい客がいるはずもなく、周囲は恐ろしく閑散としていた。
 ドーナツ屋の小さな小屋の中に、初老の男が突っ立っていた。身に着けているのはファンシーなエプロンではなく、一般市民の半年分の給料が吹っ飛びそうなダークスーツだった。腕を組み、私を見据えて不敵に笑っていた。
 それが新たな依頼人、Peter Themariだった。ブローカーの偽ロシア人が、巨体を震わせながら、あいつは人の皮をかぶった悪魔だ、と恐れた男だった。

 「お前がElder Kissmeか。噂は聞いているぞ」
 Peter Themariは言った。
 「……」
 「驚いたようだな。まさか、一介のドーナツ屋の主人にしか見えないこのワシが、実は暗黒街の顔役だとは思わなかったか。フフフ」
 「どう見てもドーナツ屋に見えない親父が、ドーナツ屋でふんぞり返っていることに驚いている」
 「そうだろう、一介のチンピラごときにワシの変装は見破……待て、今お前ワシを馬鹿にしなかったか」
 「寒風吹きすさぶ海岸でドーナツ屋に変装している暗黒街の顔役を馬鹿にするはずがない」
 「そ、そうか。それにしてはお前の目が哀れみに溢れているようだが、気のせいか」
 「誰がどう考えても明らかに気のせいだ」
 「そ、そうだな。一介のチンピラ風情が、ワシを馬鹿にするはずはないな」Peter Themariは再び自信を取り戻したらしかった。「大体、ワシの苦労も知らん奴が、ワシを馬鹿にするなど十年早い」
 「苦労があるのか」
 「当たり前だ。毎日ここにこうして立っていてみろ。腰が痛くてかなわん」
 「毎日立ってるのか!」
 「来月で丸3年になる」
 「3年!」
 「潮風でスーツもすぐに痛むしな」
 「……丸3年立ち続けて、いまだにこの場に馴染んでいないのは凄いが」
 「今のはどういう意味だ。褒めたのか?」
 「誰がどう考えても明らかに褒めている」
 「そ、そうか、当然だな! ハッハッ! 気に入ったぞElder Kissme!」
 気に入るな。
 「お前には、この群島から<Longbow>を排除するという大役を任せるとしよう。このメモを持っていけ。今回の仕事の内容と、目的地の地図だ」
 「随分と親切だな」
 「目下の者への気配りも出来んようでは一流とは言えんからな。最近物忘れが激しくなったからメモしておいたわけではないぞ」
 「誰もそんなことは言っていない」
 「そ、そうか。読み終わったらメモは捨てるようにな」
 いちいち親切な親父だ。
 「この場所のLudditesを掃討し、<Longbow>のagentを拉致すればいいのか」
 「<Longbow>はこの群島に秘密基地を建造する計画を進行させておる。そのためにLuddites(*1)と会合を開いているというわけだ。お前はその会合を叩き潰せばよい」
 「捕まえた<Longbow>はどうする」
 「現場の近くにワシの部下を待機させておく。そいつに預ければよい」
 「わかった」
 「まあ慌てるなElder Kissme。敵を知り己を知れば百戦危うからず、と古代中国のソンシも言っておる。まずは敵<Longbow>の知識を蓄えるがよかろう。ワシが教えてやるからじっくり聞いていくがよい。いいか、そもそも<Longbow>というのはだな」

 「つまりこれが、日本のコトワザでいうところの『風が吹けば桶屋が儲かる』ということだ。おっと、少々話が脱線したようだな。<Longbow>の話に戻ろう。まず」
 「途中のようだが」
 親父の話に割り込んだ。「次の仕事の話はいいのか」
 「あ?」
 「次の仕事だ。<Longbow>のagnet Albrechtなら、もうお前の部下に引き渡してきた」
 「……」
 「……」
 「もう仕事が終わったというのか! ワシが講義している短い間に!」
 講義に熱中している親父を放置して立ち去ってから再びここに戻ってくるまで、一時間ほどかかっているはずだ。……その間中一人で喋り続けていたようだが。
 「あっぱれな奴! 気に入ったぞElder Kissme!」
 気に入るな。(*2)

 

[注釈]

*1:
Ludditesというのは新技術否定主義者(意訳)のことで、今回の<Longbow>は最新技術を使って大々的に秘密基地を建設するのではなく、手掘りでひっそりと作るために彼らを雇用しようとしていたみたいです。

*2:
CADのContact、Peter Themari編です。このおじちゃんはちょっと好きです。ゲーム内の説明では、「人の皮をかぶった悪魔」とか恐ろしい事が書かれていますが、なぜか桟橋の小屋の中にいます。ビシっとスーツを着ています。ネクタイは紫です。意味がわかりません。そこがいいです(^-^;。彼なりの理由があるのだろうかと真面目に一所懸命考えましたが、どうしても真面目な結論になりませんでした。

●第20話

罠に落ちた女

 Peter Themariはスーツの懐から携帯電話を取り出した。
 「丁度部下から電話が入ったようだ。<Longbow>のAlbrecht君とやらにじっくり話を聞くとしよう」
 眼球に針をどうの、足の指を一本ずつどうのという物騒な会話が漏れ聞こえたが、私には関係のない話だった。
 随分たってから、Peter Themariは携帯電話を懐に戻した。生まれた瞬間、産声の代わりに四文字言葉を吐いたとしか思えない悪人面を微笑ませて、
 「実に有意義な会談だった。Albrecht君は少々気分が悪いとかで、途中で退席したがな」
 二度と戻ってくることはなさそうだ。
 「残念な知らせだが、Albrecht君の話では、すでにCADに<Longbow>の聴音哨が設営されているらしい。Elder Kissme、お前には、そこに出向いてもらうとしよう。その場にいる目障りな<Longbow>どもを排除し、ついでに奴らがこのCADで何を掴んだのかを調べてもらおう」
 「わかった」
 「まあ慌てるなElder Kissme。Albrecht君が我々に『協力』してくれたことなど、彼らはとっくにお見通しで、守りを固めているに違いない。だが、三匹の子豚の物語で最終的に勝利を収めたのが末っ子豚だったことからもわかるように、然るべき準備を整えて物事に当たれば失敗するということはない。ワシが策を授けてやろう。まず地勢から考えてだな」

 「アメリカ・インディアンのコトワザでは、これを『他人の靴を履いて1マイル歩かねば、その人のことは理解できない』というな。いかん、またまた話が脇にそれたな。<Longbow>の話に戻ろう」
 「連中のデータなら」
 私はPeter Themariの独り言に割り込んで、言った。「お前の部下に転送しておいたが、他に用事はあるのか」
 「……」
 「……」
 「……まさかもう連中の聴音哨に行ってきたのではあるまいな」
 「ついでに<Longbow>の連中を一人残らず病院送りにしてきたが」
 「仕事が早いのはいいことだが……」
 往復で3時間近くかかっているはずだ。少しも早くない。
 「お前は少々落ち着かないところがあるな。たまには人の話を聞け。せっかくワシがありがたい話をしているというのにだな……」
 「文句と説教は便箋5枚までにまとめて白ヤギさん宛てに郵送しろ。他に用事が無いなら帰らせてもらうぞ。そろそろ腹も空いてきた」
 「腹が空いたか。ではいいものを持たせてやろう。いや待て、部下から電話のようだ」
 携帯電話での会話が終わる頃には、悪人面が一層険しくなっていた。
 「くそったれの淫売女め!」
 「……」
 「お前のことではないぞ、Elder Kissme。間抜け女が一人、<Council>と手を結ぶために、わざわざParagon Cityにまで出かけておる。こんな時期にだ。日程も行き先もすべて<Longbow>に筒抜けになっているというのにだ。お前が手に入れてくれた<Longbow>のデータに、調査内容が丸ごと残っていた。間抜け女を捕らえる計画までもな」
 「知り合いか、その間抜け女とやらは」
 「いいや。だが、Olivia Darqueといえば、それなりに名の知れた大物だぞ。Marshall Brassの片腕としてな」
 「ふうん」
 興味がないのでそれだけ言っておいた。
 「馬鹿女がとっ捕まってZigguratにぶち込まれるのは別に構わんが、<Longbow>をいい気にさせるのは癪だ。Elder Kissme、お前にはParagon Cityに出向いてもらうとしよう」
 「その馬鹿女を始末するのか」
 「それも愉快な選択肢のひとつではあるな。だが、今回は馬鹿女を救え。<Longbow>の鼻をあかし、Marshall Brassには恩を売る」人相の悪い顔が、にやりと笑った。「これが一流のやり方だ」
 「……」
 「なぜさっさと行かん」
 「たまには人の話を聞けと言わなかったか」
 「融通のきかん奴め。今回は時間が無いから話も無い。早く行け。……ああ、これを持っていけ」

 指定されたトラックのそばに、男が立っていた。目つきと顔色が悪い。おそらく性格と頭も悪いだろう。
 「Elder Kissmeだな」
 「そうだ」
 「荷台に乗れ。Skyway Cityに直行する」
 「わかった」
 「待て、何だその袋は」
 私は、片手にぶら下げた手提げ袋に目を落とした。
 「お前のボスが丹精こめて作ったドーナツ・ファミリーパックだ。腹が空いたと言ったら持たせやがったが」
 「……」
 「食うか。いや、食え」
 「……嫌なら持ってくるなよ」

 

 Paragon CityのZiggurat刑務所から脱獄してきたElder Kissmeさんですが、久々にParagon Cityに出張。懐かしいSkyway Cityが今回の舞台です。


非常事態!?

 懐かしいのですが、大変物々しい状況になっています。Skyway Cityの象徴である高速道路は封鎖され、付近一帯には<Longbow>が配備され、大型の輸送ヘリまで来ています。<Arachnos>の大物を捕らえるためとはいえ、女一人にここまでやるのか<Longbow>といった感じです。

 StalkerであるElder Kissmeには、姿を消して包囲網を突破するなんてことは簡単すぎて目をつぶっててもできちゃうくらいなんですが(*1)、後のことも考えて、通り道を掃除しながら進行します。

 もうすっかりお馴染みとなった<Longbow>ですが、全員がsmash耐性を持っているので、Martial Arts StalkerなElder Kissmeさんには少々嫌な相手です。


<Longbow>とOlivia Darque。

 救出すべきOlivia Darqueさんは、既に<Longbow>に捕まっています。お忍びで来ているからか、バッチリ普段着です。そのどピンクのシャツがセクシーな気がしないでもないです。助けてあげると、安全な場所に連れていけだの、あとで<Arachnos>がこのことについて訊くだの偉そうなことを言いますが、

 「じゃあ一人で帰れ」

 と言うわけにもいかないので連れて行くことにします。実は闇の力を使う強者です。<Longbow>が警戒しただけあります。てゆうかほっといてもいいんじゃないでしょうかこの人。


もしかして強いんですか?

 でものほほんとしていると、<Longbow>所属のトゲトゲヒーロー『The Ranger』がやって来ます。


顔色の悪いヒーロー登場!

 センスのないカラーリングをしてるだけあって、大した事のない奴なので、さくっと倒して脱出しましょう。

 

 トラックが走り出すのを確認してから、Olivia Darqueは荷台の床に腰を下ろした。短いスカートから下着が丸見えだったが、気にしてはいないようだった。
 「一応、礼は言っておくわ。……と型通りに言いたいけれど、まず誰の差し金か教えていただかないとね、Elder Kissme」
 自己紹介はしていないが、私の名前は知っていたらしい。末端とはいえ同じ<Arachnos>の人間だ。当然かもしれない。
 私は包み隠さず答えた。
 「ドーナツ屋の親父に頼まれた」
 Olivia Darqueは、状況が悪化してゆくテトリスの画面を見つめるプレイヤーのように、どんどん難しい顔つきになっていった。きっかり一分後、
 「意味が……よくわからないんだけど……」
 「隠された意味など、どこにも存在しないが」
 「……ドーナツ屋に知り合いなんていないんだけど」
 「嘘ではない証拠に、ここにその親父の作ったドーナツ・ファミリーパックがある」
 私は手提げ袋を彼女の前に置いた。
 「食うか」
 「いらないわよ!」
 Olivia Darqueはため息をひとつ、ついた。
 「……まあいいわ。CADに帰って確かめればいい話ね」
 面倒な説明をせずに済む分、その方がありがたかった。
 揺れる荷台で、私たちは長い間黙っていた。私は今夜のねぐらと夕飯の事を考え、Olivia Darqueはじっと私を見つめて何かを考えていた。
 やがて、Olivia Darqueは自分の指から大きな指輪を抜き取り、私に差し出した。王冠の上に怪しげな印形が描かれた、プラチナシルバーの指輪だった。
 「何だ」
 「誰の差し金で来たのかは知らないけど、あなたには礼を言うべきだと思ったのよ。これは私の感謝の印」
 「アクセサリーを着ける趣味はない」
 私の言葉に、彼女は片頬だけで笑った。
 「Olivia Darqueの指輪よ。通行証の代わりにはなるわ。CADでなら、ね」
 言いながら、私の手に指輪を押し付けてきた。
 投げ捨ててしまおうかと思ったが、密閉された荷台の中ではそれもできず、結局私はそれをポケットに収めた。
 Olivia Darqueは、少しだけ眼差しを柔らかにした。(*2)

 

[注釈]

*1:
できません。

*2:
おかしなおかしなPeter Themari編、第二弾です。読んでいただいたらわかるかと思いますが、前回を含めて3つのMissionからなるStory Arcです。以前どこかに書いたように、ウチは単発Mission中心に書いていくつもりなのですが、このPeter Themariは何故かStory Arcしか持ってやがらねえので、しかたなく書いてしまいました。最後にOlivia Darqueから指輪をもらうのは本当ですが、Peter Themariからドーナツはもらいません。Peter Themariがドーナツ屋に化けていること自体デッチアゲなので信じないでください (^-^;。Olivia Darqueの指輪は、説明を読むと大層なことが書いてありますが、別に今後のキーアイテムになるわけでもなさそうです。Olivia Darqueも結構な大物のようですが、所詮はCADでの重要人物という程度らしく、この後出てきた憶えはありません。彼女のボスであるMarshall Brassは、CADのContactとして登場します。ウチの日記に登場するかどうかは微妙です。(^-^)

[追記1]
Peter Themariが本当はどんな人面獣魂の魑魅魍魎(谷恒生的表現)であるかは、いつものようにこちらをご参照くださいネ。

[追記2]
Olivia Darqueのその後については、こちらに情報が。

 

previous page ← | index | → next page