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●第20話
罠に落ちた女
Peter Themariはスーツの懐から携帯電話を取り出した。
「丁度部下から電話が入ったようだ。<Longbow>のAlbrecht君とやらにじっくり話を聞くとしよう」
眼球に針をどうの、足の指を一本ずつどうのという物騒な会話が漏れ聞こえたが、私には関係のない話だった。
随分たってから、Peter Themariは携帯電話を懐に戻した。生まれた瞬間、産声の代わりに四文字言葉を吐いたとしか思えない悪人面を微笑ませて、
「実に有意義な会談だった。Albrecht君は少々気分が悪いとかで、途中で退席したがな」
二度と戻ってくることはなさそうだ。
「残念な知らせだが、Albrecht君の話では、すでにCADに<Longbow>の聴音哨が設営されているらしい。Elder Kissme、お前には、そこに出向いてもらうとしよう。その場にいる目障りな<Longbow>どもを排除し、ついでに奴らがこのCADで何を掴んだのかを調べてもらおう」
「わかった」
「まあ慌てるなElder Kissme。Albrecht君が我々に『協力』してくれたことなど、彼らはとっくにお見通しで、守りを固めているに違いない。だが、三匹の子豚の物語で最終的に勝利を収めたのが末っ子豚だったことからもわかるように、然るべき準備を整えて物事に当たれば失敗するということはない。ワシが策を授けてやろう。まず地勢から考えてだな」

「アメリカ・インディアンのコトワザでは、これを『他人の靴を履いて1マイル歩かねば、その人のことは理解できない』というな。いかん、またまた話が脇にそれたな。<Longbow>の話に戻ろう」
「連中のデータなら」
私はPeter Themariの独り言に割り込んで、言った。「お前の部下に転送しておいたが、他に用事はあるのか」
「……」
「……」
「……まさかもう連中の聴音哨に行ってきたのではあるまいな」
「ついでに<Longbow>の連中を一人残らず病院送りにしてきたが」
「仕事が早いのはいいことだが……」
往復で3時間近くかかっているはずだ。少しも早くない。
「お前は少々落ち着かないところがあるな。たまには人の話を聞け。せっかくワシがありがたい話をしているというのにだな……」
「文句と説教は便箋5枚までにまとめて白ヤギさん宛てに郵送しろ。他に用事が無いなら帰らせてもらうぞ。そろそろ腹も空いてきた」
「腹が空いたか。ではいいものを持たせてやろう。いや待て、部下から電話のようだ」
携帯電話での会話が終わる頃には、悪人面が一層険しくなっていた。
「くそったれの淫売女め!」
「……」
「お前のことではないぞ、Elder Kissme。間抜け女が一人、<Council>と手を結ぶために、わざわざParagon Cityにまで出かけておる。こんな時期にだ。日程も行き先もすべて<Longbow>に筒抜けになっているというのにだ。お前が手に入れてくれた<Longbow>のデータに、調査内容が丸ごと残っていた。間抜け女を捕らえる計画までもな」
「知り合いか、その間抜け女とやらは」
「いいや。だが、Olivia Darqueといえば、それなりに名の知れた大物だぞ。Marshall Brassの片腕としてな」
「ふうん」
興味がないのでそれだけ言っておいた。
「馬鹿女がとっ捕まってZigguratにぶち込まれるのは別に構わんが、<Longbow>をいい気にさせるのは癪だ。Elder Kissme、お前にはParagon Cityに出向いてもらうとしよう」
「その馬鹿女を始末するのか」
「それも愉快な選択肢のひとつではあるな。だが、今回は馬鹿女を救え。<Longbow>の鼻をあかし、Marshall Brassには恩を売る」人相の悪い顔が、にやりと笑った。「これが一流のやり方だ」
「……」
「なぜさっさと行かん」
「たまには人の話を聞けと言わなかったか」
「融通のきかん奴め。今回は時間が無いから話も無い。早く行け。……ああ、これを持っていけ」
指定されたトラックのそばに、男が立っていた。目つきと顔色が悪い。おそらく性格と頭も悪いだろう。
「Elder Kissmeだな」
「そうだ」
「荷台に乗れ。Skyway Cityに直行する」
「わかった」
「待て、何だその袋は」
私は、片手にぶら下げた手提げ袋に目を落とした。
「お前のボスが丹精こめて作ったドーナツ・ファミリーパックだ。腹が空いたと言ったら持たせやがったが」
「……」
「食うか。いや、食え」
「……嫌なら持ってくるなよ」
Paragon CityのZiggurat刑務所から脱獄してきたElder Kissmeさんですが、久々にParagon Cityに出張。懐かしいSkyway Cityが今回の舞台です。

非常事態!?
懐かしいのですが、大変物々しい状況になっています。Skyway Cityの象徴である高速道路は封鎖され、付近一帯には<Longbow>が配備され、大型の輸送ヘリまで来ています。<Arachnos>の大物を捕らえるためとはいえ、女一人にここまでやるのか<Longbow>といった感じです。
StalkerであるElder Kissmeには、姿を消して包囲網を突破するなんてことは簡単すぎて目をつぶっててもできちゃうくらいなんですが(*1)、後のことも考えて、通り道を掃除しながら進行します。
もうすっかりお馴染みとなった<Longbow>ですが、全員がsmash耐性を持っているので、Martial Arts StalkerなElder Kissmeさんには少々嫌な相手です。

<Longbow>とOlivia Darque。
救出すべきOlivia Darqueさんは、既に<Longbow>に捕まっています。お忍びで来ているからか、バッチリ普段着です。そのどピンクのシャツがセクシーな気がしないでもないです。助けてあげると、安全な場所に連れていけだの、あとで<Arachnos>がこのことについて訊くだの偉そうなことを言いますが、
「じゃあ一人で帰れ」
と言うわけにもいかないので連れて行くことにします。実は闇の力を使う強者です。<Longbow>が警戒しただけあります。てゆうかほっといてもいいんじゃないでしょうかこの人。

もしかして強いんですか?
でものほほんとしていると、<Longbow>所属のトゲトゲヒーロー『The Ranger』がやって来ます。

顔色の悪いヒーロー登場!
センスのないカラーリングをしてるだけあって、大した事のない奴なので、さくっと倒して脱出しましょう。


トラックが走り出すのを確認してから、Olivia Darqueは荷台の床に腰を下ろした。短いスカートから下着が丸見えだったが、気にしてはいないようだった。
「一応、礼は言っておくわ。……と型通りに言いたいけれど、まず誰の差し金か教えていただかないとね、Elder Kissme」
自己紹介はしていないが、私の名前は知っていたらしい。末端とはいえ同じ<Arachnos>の人間だ。当然かもしれない。
私は包み隠さず答えた。
「ドーナツ屋の親父に頼まれた」
Olivia Darqueは、状況が悪化してゆくテトリスの画面を見つめるプレイヤーのように、どんどん難しい顔つきになっていった。きっかり一分後、
「意味が……よくわからないんだけど……」
「隠された意味など、どこにも存在しないが」
「……ドーナツ屋に知り合いなんていないんだけど」
「嘘ではない証拠に、ここにその親父の作ったドーナツ・ファミリーパックがある」
私は手提げ袋を彼女の前に置いた。
「食うか」
「いらないわよ!」
Olivia Darqueはため息をひとつ、ついた。
「……まあいいわ。CADに帰って確かめればいい話ね」
面倒な説明をせずに済む分、その方がありがたかった。
揺れる荷台で、私たちは長い間黙っていた。私は今夜のねぐらと夕飯の事を考え、Olivia Darqueはじっと私を見つめて何かを考えていた。
やがて、Olivia Darqueは自分の指から大きな指輪を抜き取り、私に差し出した。王冠の上に怪しげな印形が描かれた、プラチナシルバーの指輪だった。
「何だ」
「誰の差し金で来たのかは知らないけど、あなたには礼を言うべきだと思ったのよ。これは私の感謝の印」
「アクセサリーを着ける趣味はない」
私の言葉に、彼女は片頬だけで笑った。
「Olivia Darqueの指輪よ。通行証の代わりにはなるわ。CADでなら、ね」
言いながら、私の手に指輪を押し付けてきた。
投げ捨ててしまおうかと思ったが、密閉された荷台の中ではそれもできず、結局私はそれをポケットに収めた。
Olivia Darqueは、少しだけ眼差しを柔らかにした。(*2)
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